日本の相続⑯   代襲相続人

本来相続人となるべき相続者(推定相続人、例えば子)が相続開始前に死亡している場合に、孫が代わりに相続することが認められます。代わりの相続を受けた者のことを代襲相続人、相続開始前に死亡している推定相続人のことを被代襲者と呼びます。代襲相続人になれるのは、被相続人の子と兄弟姉妹だけであり、直系尊属(父母、祖父母)には代襲相続は認められません。また、息子の嫁のような推定相続人の配偶者も代襲相続人になれません。

代襲相続は、相続欠格や相続排除など、推定相続人が生存している場合にも起こります。推定相続人に犯罪や非行があったため相続人としての資格が欠格・排除になった場合、子が代襲相続人として代わりに相続することが認められます。

相続人に子がなく、父母も既に死亡している場合は、兄弟(姉妹)が相続人になります。兄弟が既に死亡しているケースでは、その子であるおい(またはめい)が兄弟に代わって相続人になります。この場合、おいが「代襲相続人」であり、死亡した兄弟が「被代襲者」となります。「代襲相続人」となるべきおいも既に死亡していた場合は、再代襲は認められず、おいの子は相続人になりません。子の代襲相続人になるべき孫が死亡していた時は、ひ孫がというように再代襲が繰り返し認められますが、兄弟姉妹の代襲は、おいかめいの段階で打ち切られます。(785)

日本の相続⑭死因贈与

「死因贈与」は、贈与者(財産を与える人)と受贈者(財産を受け取る人)との間の契約によって成立します。贈与者の死亡によって財産を契約通りに受贈者が受け取るのが「死因贈与」です。通常、贈与には贈与税が課されますが、死を原因とする贈与契約である「死因贈与」は、遺産と同様に考えられるため、相続税が課されます。すなわち、「相続」や「遺贈」ばかりでなく、「死因贈与」によって故人の遺産を受け取った時にも相続税がかかるのです。

「遺贈」は、遺言者の一方的な意志によるものであるため、気が変われば遺言書を書き変えて遺産の譲り渡しを取り止めることもできます。一方、「死因贈与」の場合は、受贈者との契約であるため、勝手に契約を破棄することはできません。いずれにしても、「遺贈」も「死因贈与」も、人が死亡することによって財産を得るため、基本的には相続と同等の扱いを受け、相続税が課されるのです。

「死因贈与」によって財産を取得した個人(受贈者)は、取得財産を課税標準として計算した相続税を納付します。(784)

日本の相続⑬    遺贈

相続が開始されて、その相続財産が一定金額以上あると相続税がかかってきますが、相続によって財産を得たときだけに相続税がかかるわけではありません。相続のほかに、「遺贈」と「死因贈与」という2つのケースのときにも相続税がかかります。

「遺贈」とは、一定の方式に従った遺言書によって財産を人に譲ることをいいます。遺言者の死亡と同時に一方的に特定人物(受遺者)に財産が与えられます。遺贈の相手に関しては制限がなく、相続人はもちろんのこと、相続権のない親族、血縁関係のない第三者や会社など、誰でも受遺者として指定できます。遺産全体の割合を示して遺贈する「包括遺贈」は、指定された割合で遺産を引き継ぐ権利を持つことになるため、受遺者は立場的に相続人と同等になります。したがって、故人に債務があれば、それを負担しなければなりません。

「何町目何番地の土地何平方メートル」というように、財産を特定する「特定遺贈」は、明確な物件が指定されるため、故人の債務を一緒に負担することはありませんし、債務の受け入れを拒否することもできます。(783)

日本の相続⑫ 特別受益制度

故人の財産形成に貢献した人に相続加算される「寄与分制度」とは逆に、生前に故人から特別に受け取った財産の利益分を相続から減算調整することを「特別受益制度」といいます。例えば、父親の生前、長男は住宅購入資金の援助を受けたとします。父親の死後、相続人である長男と次男が残った財産を法定相続分通りに遺産分配すると不公平が生じます。

このような不公平をできるだけ少なくするように定められたのが当制度で、故人から特別な財産分与(生前贈与)による利益を受けた人(長男)のことを「特別受益者」と言います。「特別受益者」が受けた財産的利益を遺産額に加算した金額を法定相続分で配分した後、長男の相続分からその財産的利益を差し引いて、長男の相続分とします。

財産的利益(特別受益)とは、どの程度のものか、どんな場合に相当するのか、寄与分制度と同様はっきりした基準はありません。あくまでも、相続人同士の話し合いで決めることです。話し合いで決着がつかないときは、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。(782)

日本の相続⑪   寄与分制度

同じ順位の相続人が遺産を均等に相続することが必ずしも妥当とは言えないケースがあります。相続人の中に、被相続人の財産の増加や維持に特別の寄与をした人がいる場合は、遺産の分配にあたり、寄与分として別枠で遺産を相続できるようにするのが「寄与分制度」です。

例えば、長男は高校卒業後すぐに父親の後を継いで農業に従事し、それから30年間勤勉に働いてきました。一方次男は、大学を卒業して都会で結婚し、会社勤めをしています。年に一度手土産を持って孫の顔を見せに帰るだけです。父親が亡くなり、遺された財産は1億円で、そのほとんどが田畑などの農業用財産です。父親が財産を遺せたのも、要は長男が一所懸命に農業をしていたからです。したがって、遺産の名義は父親であっても、その中には相当程度、長男の労働による寄与分も含まれていると見ることができます。長男の寄与分が仮に4000万円とすると、残りの6000万円を長男と次男で相続分に従って配分することになります。

寄与者の貢献度をはかる明確な基準はありません。寄与分の金額は原則、相続人同士の話し合い協議で決めます。協議がまとまらないときは、家庭裁判所の調停で決めてもらうことになります。(781)

日本の相続⑩ 指定相続分 

相続人が二人以上いる場合に、被相続人は遺言によって法定相続分とは異なる相続割合を指定することができます。また、異なる相続割合を指定することを弁護士など第三者に委託することもできます。遺言で各相続人の相続分を指定することを「指定相続分」といいます。相続には被相続人の意思が優先されますから、「指定相続分」は法定相続分に先立って適用されます。法定相続分では妻には50%以上、子には均等割の財産が分与されますが、例えば、親の面倒を見てくれた子と冷たかった子とで差をつけたいという場合に活用できるのが「指定相続分」の制度です。ただし、各相続人に対する最低限相続を保証する制度である遺留分に反するような、極端に不公平な「指定相続分」を指示することはできません。したがって、各相続人の遺留分がどのくらいかを確認してから「指定相続分」を指示する必要があります。遺留分は、法定相続分の2分の1または3分の1であり、兄弟姉妹については、遺留分はありません。

相続分の指定が一部の相続人だけにあった場合、他の相続人は残りの財産について法定相続分によって振り分けることとされています。(780)

日本の相続⑨    配偶者と父母が相続人の場合

 

故人(被相続人)に子やその代襲者(孫)が一人もいないときは、配偶者と法定相続第2順位の父母(直系尊属)が相続人になります。この場合の相続分は、配偶者が遺産額の3分の2、父母(直系尊属)が3分の1になります。父母のどちらかが死亡により相続権を失っていた場合は、残りの1人が3分の1すべてを相続します。直系尊属の父母とは、もちろん故人(被相続人)の親ということですが、実父母、養父母の区別はありません。したがって、故人が養子だったならば、実の親と育ての親の双方が相続人になります。

直系尊属の父母とも既に死亡している場合は、かわりに祖父母が代襲相続人として相続します。その場合、父方、母方は関係がなく、全員が健在ならば4人で相続分を均等分することになります。

故人(被相続人)が9000万円の遺産を残して配偶者と父母が法定相続人である場合、配偶者は遺産の3分の2の6000万円、父は3分の1の半額の1500万円、母は父と同じ1500万円が法定相続分となります。父母とも死亡していて祖父母二人が健在ならば、代襲相続人として祖父、祖母が1500万円ずつ相続します。(779)

日本の相続⑦   法定相続分

人が亡くなった時、遺族の誰がいくらの財産を相続するかが問題となります。それぞれの相続人の遺産に対する権利の割合のことを「相続分」といいます。遺されたのが配偶者だけで、子も親も兄弟もいない場合や、子供一人だけの場合は、一人の相続人が全財産を相続するため、相続分は問題になりません。相続分が日本で問題となるのは相続人が二人以上いる場合です。

遺言なしに人が亡くなった場合、故人(被相続人)の意思を法律によって推定して相続分を定めた「法定相続分」に従って相続することとされています。一般に相続分という場合、「法定相続分」を指しています。その割合は、誰が相続人であるかによって異なります。配偶者と子が相続人である場合の相続分は、配偶者が2分の1、子が2分の1です。子が2人以上の場合は2分の1を均等に分けます。配偶者と父母・祖父母の場合、相続分は配偶者が3分の2、父母・祖父母が3分の1です。配偶者と兄弟姉妹の場合、相続分は配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1です。(777)

日本の相続⑧   実子、養子、婚外子の相続分

日本で2億円の遺産を残して父親が亡くなりました。遺族は配偶者と子2人です。被相続人(父)が遺言を残さずに亡くなった場合の相続分の割合は、配偶者2分の1、子2分の1となります。子が複数いる場合、2分の1を均等に人数で分けます。したがって、配偶者は2分の1である1億円、2人の子は1億円の2分の1である5000万円(4分の1)ずつが、各人の法定相続分となります。

子には実子だけでなく、法律上の子、すなわち養子も含まれます。認められる養子の人数には制限があり、実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人です。また、婚姻届を提出していない男女間に生まれた婚外子(非嫡出子・ひちゃくしゅつし)にも同等の相続権があります。婚外子が相続人となるためには、父親の認知(戸籍上の届け出)がなされていることを必要とします。婚外子の相続分は、以前は実子の相続分の2分の1と定められていましたが、平成25年9月5日以後の相続から同等となりました。実子2人の他に、養子1人と婚外子1人がいる場合、2500万円(1億円の4分の1)ずつが各人の法定相続分となります。(778)

日本の相続⑥     相続欠格と相続廃除

 

相続人に一定の重大な非行があった場合、相続人としての資格を失います。これを「相続欠格」と言います。被相続人やほかの相続人の生命を侵害して相続財産を独占しようとした場合のほか、詐欺や脅迫によって被相続人の遺言に干渉し、有利に相続しようとする行為も欠格の原因となります。相続権のある者に欠格原因があれば、それだけで相続資格が無くなるため、特に日本の裁判所の決定などの手続きを必要としません。

 相続欠格ほどではないが、相続人となるべき者に一定の非行があった時は、被相続人の意思により、日本の家庭裁判所へ申し立てをして、相続権を奪う制度があります。これを「相続廃除」といいます。「相続廃除」の原因は次の3つです。

  • 被相続人に対して虐待(ぎゃくたい)したとき。
  • 被相続人に対して重大な侮辱(ぶじょく)を与えたとき。
  • そのほか著しい非行があったとき。

相続人となる予定の者のうち、遺留分(最低限度の相続割合)がある配偶者、子、父母が相続排除の対象となります。兄弟姉妹は、慰留分がなく、相続廃除の対象となりません。(776)

 

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