Sコープの税務

アメリカの株式会社は、各州の会社法の規定に基づいて設立されます。株式会社がIRC (内国歳入法)の第S章の一定要件を満たすとSコープと呼ばれます。Sコープ以外の株式会社は、内国歳入法の第C章に基づく法人であるため、Cコープと呼ばれます。SコープとCコープとの間には会社法上の区別はありませんが、課税上の取り扱いに明確な相違点があります。相違点はCコープが団体課税を採用しているのに対して、Sコープは構成員課税を採用していることです。

S法人は、原則として法人所得税の課税関係は発生しません。パートナーシップの場合と同様に、法人段階の所得、利益、損失および控除項目は、年度ごとに、持ち株数に応じて各株主に割り当てられ、株主の段階で課税を受けることになります(構成員課税)。つまり、税法上Sコープは、法人所得税の負担がないという点において、Cコープよりも有利な取り扱いを受けることができます。Sコープの多くは、株主1人ないし数人の小規模会社であり、会社法上および一般的な外見上は普通の株式会社と何ら変わりがなく、所有と経営の分離、株主有限責任、対外的に比較的高い信用を得ることができるなど、普通の株式会社の場合に近い利益にあずかることが可能です。(765)

LLCの設立

LLCは、法人とパートナーシップの特徴を兼ね備えた事業形態の組織です。LLCの所有者はメンバーと呼ばれていて、法人の株主同様、連邦税や多くの州で課税上のLLCの債務に責任を負っていません。また、ほとんどの州で課税上のパートナーシップ(パススルーエンティティー)としての取り扱いを受けることが可能なため、LLC自体が課税対象とならず、LLCの損益は各メンバーに配分されて、各メンバーが配分された損益を申告することになります。

LLCの設立は、全米50州およびワシントンDCのすべてにおいて認められています。LLC会社法の内容は州によって異なるものの、次の共通点があります。

  • 出資者はメンバー(構成員)と呼ばれ、有限責任を負う。
  • LLCの出資者の人数には制限が設けられていない。
  • LLCの存続期間は有限とする。一般に最長で30年。
  • LLC出資者の死亡および脱退は、LLCの解散原因となる。
  • LLCの出資者の持ち分は、一般に譲渡可能ではあるが、持分の譲渡を受けた者が経営参加の権利を有するとは限らない。                                                                                                                                                                                                                                                 (763)

 

自営業による事業展開・長所と短所

自営業による事業展開と、会社形態による事業展開を比較してみます。

自営業は1人の個人が資金(資本)を拠出して設立する個人事業形態です。事業主がすべての資産を所有し、事業の全経営権を有するかわりに、個人的および事業上のすべてのリスク、債務損失および損失の無限責任を負います。

個人事業主 (Proprietor) が、カウンティー・クラーク事務所に出向いてBusiness Certificateビジネス証明書を提出して登録を行います。ビジネス証明書は文房具屋で売っているものを使うことができます。カウンティー・クラーク事務所の職員は、申請者の名称が既に登録されていないかどうかを確認し、名称を登録してビジネス証明書の発行を行います。登録費用は、ファイリング、ノータリー、コピー代などで100ドル~200ドルです。一方、会社の設立には、より高額の費用を必要とします。事前に、商号(会社の名称)、授権株式数、額面金額、取締役会の構成員氏名(社長、副社長、ディレクターオフィサー)などを決め、基本定款)および付属定款を作成します。そして、州務長官明に提出して認可を得ます。明らかに自営業の事業開始のための書類作成の方が簡単であることがわかります。自営業の長所は、事業設立の簡便さ、事業主がすべての決断を下すことができること、利益を独占できることです。(762)

 

 

米国進出形態・現地法人子会社の税務

米国に進出する日本企業にとって、現地法人子会社は駐在員事務所や支店と比べて、より踏み込んだ事業形態です。組織を結成するにあたって、株式会社(現地法人)、パートナーシップ、LLCなどの形態が考えられますが、このうち株式会社は日本企業にとって最もなじみやすい形態です。米国内に別個の組織である現地法人を設立して、その組織を通じて米国内において商活動を展開します。現地法人は、資金提供者である株主と経営陣である役員・取締役によって事業運営を行います。株主は出資株式引受額までの責任を負います。現地法人は、株主から分離独立した租税主体として扱われ、組織の所得計算を毎年行い、連邦および州の法人所得税を毎年支払わなければなりません。

現地法人は連邦政府の法律によって設立されるのではなく、米国50州およびワシントンDCの会社法に基づいて設立されます。事前に、会社の名称、授権株式数、額面金額、取締役会の構成員氏名(社長、副社長、ディレクター、オフィサー)などを決め、通常弁護士に依頼して基本定款および付属定款を作成します。定款を州の商務長官に提出して認可を得ます。さらに、連邦雇用主番号の申請、州源泉税、失業保険、労災保険、売上使用税などの登録を必要とします。(495)

米国進出形態・支店の税務

日本企業の米国への進出形態の一つに、支店による展開があります。駐在員事務所が米国において準備的・補助的活動を行うのに対して、支店は直接、米国内での事業活動に従事します。事業活動には、販売促進活動、補償役務の提供、資金の運用・調達、本社製品の維持、アフターケア・サービス、修理などが含まれます。支店は日米租税条約第5条に言及されている恒久的施設(略称PE)に該当します。米国税法第882条にも、米国内において商活動に関与する外国企業は連邦法人税の対象となる旨の記述があります。

連邦法人税の課税の範囲は、PEに帰せられる利益であり、米国内の支店と実質的に関連のある所得に限定されます。外国法人のための税金フォーム1120Fで連邦法人税の申告を行います。支店は、州の法人税の申告も必要とします。州法人税の計算上、州によっては連邦課税所得を出発点とする場合と、全く異なる課税基準に基づく計算をする場合とがあります。例えば、ニューヨーク州法人税の場合、純利益、資本金、代替所得にかかる税金額のうち最高額を支払うことになっています。

支店形態の欠点は、税務調査に発展したり、訴訟に巻き込まれたりした場合、日本本社にまで調べが及ぶことです。(494)

駐在員事務所の税務

駐在員事務所は、米国に進出する日本企業の最も初期の段階の形態です。駐在員事務所は、連邦法人税の対象にはなりません。その法的根拠は日米租税条約第5条にあります。すなわち、第5条の「恒久的施設」Permanent Establishment (略称 ‘PE’) の解釈を出発点とします。日本企業が米国において課税されるのは、米国内にPEを有する場合に限るとしています。PEとは、支店、事務所、工場、作業所など、事業を行う一定の場所を指しますが、情報収集活動や準備的、補助的性格の活動は例外とされ、米国における事業活動とは見なされないと規定しています。また、仲立人、問屋、その他の独立の地位を有する代理人(独立代理人)を通じて業務を行うこともPEにはなりませんが、ただし独立代理人以外の、企業に代わって行動する者が米国内で企業の名において契約の締結を反復行使する権限を有する場合はPE とみなすとしています。以上の定義から、企業の活動が準備的または補助的活動に該当すれば、その事務所はPEとはならず、連邦法人税の対象にはなりません。

日米租税条約は、アメリカ合衆国と日本国との間で締結された国家間の取り決めであり、その適用は州法には及ばないため、駐在員事務所は州および市の法人税の対象になることにご注意ください。(493)

事業形態と税務 - S コーポレーション(S法人)

米国国内で設立された株式会社が、税法規定上の一定要件を満たすと、選択によりSコーポレーション(S法人)と呼ばれる事業形態になります。S法人は、会社と株主の両段階での二重課税の回避を達成するパススルーの仕組みを応用しています。すなわち、パートナーシップやLLCの場合と同様、S法人には組織段階での課税関係は発生せず、所得や利益、損失、控除項目は、年度ごとに持株割合に応じて各株主に割り当てられ、株主の段階での構成員課税が適用となります。所有と経営が分離されていて、株主の責任が有限であるなど、外見上普通の株式会社と何ら変わりないため、対外的に比較的高い信用を得られることがS法人の長所です。短所は、非居住外国人が株主にはなれないことであり、また、外国法人を含む法人がS法人の株を所有できないことです。

 

米国50州のいずれかの州の会社法の規定に基づいて設立された内国法人が、次の4条件のすべてを同時に満たすとS法人の選択を行うことができます。

①株主数が100人以内であること。

②株主は、個人、遺産財団あるいは特定信託であること。

③株主は、非居住外国人、法人あるいはパートナーシップではないこと。

④発行株式は1種類であること。

 

S法人としての取り扱いを希望する法人は、申請書フォーム2553様式を所定の提出期限までにIRSへ提出します。S法人の選択には株主全員の同意が必要です。(492)

事業形態と税務 - LLC リミテッド・ライアビリティー・カンパニー

LLC (リミテッド・ライアビリティー・カンパニー) は、パートナーシップと株式会社の特長を兼ね備えた組織です。米国で設立される事業形態のうち最も多数を占めているのがLLCです。パートナーシップの純利益が組織段階での課税(団体課税)ではなく、各パートナーが持分利益に対して出資者の段階で課税(構成員課税)を受けるのと同様に、LLCも選択により会社組織段階での課税を避け、出資比率に基づいて各出資者に割り当てられた純利益について、出資者の段階での課税を受けられます。個人出資の場合は個人所得税を、法人出資の場合は法人税を納税する構成員課税の形態を採ります。パートナーシップの一般パートナーと異なり、LLC出資者(構成員)は会社の経営に参加する際、事業リスク、債務および損失に関して有限責任で済ませることができます。出資者個人の財産によってLLC組織の負債の責任を負う必要がないということです。

 

日本の居住者(米国税法上の非居住外国人)、または、日本法人が米国LLCの出資者である場合、米国出資者と同様、LLCの純利益、損失、控除に出資比率を掛け合わせた持分金額を報告して確定申告する義務があります。出資者が日本の個人の場合は非居住外国人用のフォーム1040NRで、日本法人の場合は外国法人用フォーム1120Fで申告・納税しなければならず、いたって煩雑です。そのため、外国人、外国法人による米国LLCへの投資はできる限り回避することが勧められます。(491)

事業形態と税務 - パートナーシップ

パートナーシップは、2人以上の者が共有者として資金や財産、役務、技術などを拠出して、利益を目的とした事業を営む個人企業の理論的延長にある組織です。長所として、複数の能力、判断、技能を結合できること、自営業と比べてより多額の資本を得られること、一般法人と比べて組織段階で課税されず、個人パートナー段階のみの課税を受けるため、二重課税の回避ができることが挙げられます。短所は、特にジェネラル・パートナーが、自営業の場合と同様、債務やリスクに対して無限責任を負うことです。出資の限度までの有限責任パートナーがいる組織もあり、それをリミテッド・パートナーシップと呼びます。個人ばかりでなく法人がパートナーになることもできます。

 

収益を直接各パートナーに分配し、パートナーが個人の単位で所得を申告するパススルー課税が実行されます。具体的には、事業損益、受取利子、受取配当、不動産損益、キャピタル・ゲイン(ロス)、税額控除などについて持分に応じて配分された金額が記載されたスケジュールK-1がパートナーシップによって発行されます。個人パートナーはそれぞれ個人所得税申告書フォーム1040および添付スケジュールの所定の個所へ転記して申告して税金計算を行います。個人パートナーのパートナーシップ所得は通常の個人所得税及び自営業税の対象となります。(490)

事業形態と税務 - 株式会社

自営業ではなく会社組織を結成して事業展開する選択肢も考えられます。株式会社(法人)は、資金提供者である株主と経営陣である役員・取締役によって事業運営を行う組織です。所有と経営の分離の原則に基づき、法人は株主から分離独立した租税主体として扱われます。株主は株式の引受額(出資額)までの責任を負います(株主有限責任の原則)。自営業の個人事業主が無限責任を負うことと比べて対照的です。法人は、毎年組織の所得計算を行い、その所得に課せられる法人税の支払いを行わなければなりません。

 

法人の総収入からすべての関連必要経費を差し引いた後の金額である純利益が、法人税の対象となります。法人税の税率は、連邦が35%、州・市税がそれぞれの州・市によって異なり1%~10%です。株主が法人からの分配によって受取る配当に対して所得税が課税されます。組織と株主の段階での二重課税が生じる点が、法人の短所と言えます。役員、従業者は、法人から支払われる給与・報酬に対して所得税およびFICA税(ソーシャル・セキュリティ税6・2%、メディケア税1・45%)が課税されます。法人は、米国50州およびワシントンDCの会社法に基づいて設立されます。事前に商号(法人の名称)、授権株式数、額面金額、取締役会の構成員氏名(社長、副社長、ディレクター、オフィサー)などを載せて作成した基本定款および付属定款を州務長官に提出して認可を得ます。(489)

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