国境を越えて活動する芸能人・スポーツ選手の税務

日米間の国境を越えて活動する芸能人およびスポーツ選手(芸能人等)の税務については、日米租税条約第16条が規定しています。 国境を越えて公演や競技などの個人的活動を行う日本からの芸能人等は、原則、活動が行われた源泉地国(米国)で課税されます。ただし、年間の滞在日数に関わらず、芸能人等としての活動から得る所得が1万ドル以下の場合は、源泉地国での課税は免除され、1万ドル超の場合にだけ課税されます。すなわち、米国における公演・競技等による総収入額が1万ドルを超えない芸能人等については、米国での課税は免除となります。1万ドルを超えると、所得の総額に対して米国で課税されます。米国で課税されてもされなくても、日本の居住者として日本での課税が生じます。

芸能人等の活動に対する報酬が、個人に対して支払われるのではなく芸能法人等に支払われると、芸能法人等が源泉地国での課税の対象となる場合と、対象とならない場合とがあります。それは、外国法人の課税・非課税を決定する要件である恒久的施設の例外的適用によるためです。(750)

ビザと税金

 

米国の所得税法上、外国人 (日本人) は居住者あるいは非居住者に区分されます。どちらに該当するかによって、課税対象となる所得の範囲が異なり、認められる控除の種類や適用される税率に違いがあります。使用する用紙も、居住外国人はフォーム1040、非居住外国人は1040NRという具合に異なります。このため外国人の米国における所得税を検討するにあたって、本人が居住外国人か非居住外国人かを判定することが最も重要なポイントであり、出発点となります。判定は、ビザの種類によって、あるいは、米国税法の「実質的滞在条件」や日米租税条約の規定に基づいて下されます。注意すべきことは、所得税法上の居住者・非居住者の定義は、遺産税・贈与税にはそのまま適用されないということです。’Domicile’(定住地)と呼ばれる所得税とは全く異なる概念が用いられて、遺産税・贈与税法上の居住者・非居住者が決定されます。

 

ビザの種類で非居住者となるのが、A (外交官)、G(国際機関)、F (学生)、J (国際交流)、M (専門学校生)、Q (交流訪問) の各ビザ保持者です。米国内での滞在日数に関係なく非居住外国人になります。永住権 (グリーンカード) 保持者は、たとえ国外に住んでいたとしても必ず居住者になります。上記以外のE(投資家)、H(就労)、I(報道)、L(駐在員)、O(卓越能力者)、P(運動芸術)各ビザ保持者は、実際に米国に滞在した日数によって居住者・非居住者が決まります。簡単にいえば、「実質的滞在条件」と呼ばれる183日を基準とした滞在日数よりも長いか短いかで居住者または非居住者となります。(723)

 

源泉徴収税とITIN

納税者が IRSに税金を納めたり、申告書を提出したりする場合に、必ず求められるのが納税者番号です。米国籍・居住外国人が求められるのがソーシャル・セキュリティー(SS)番号であり、非居住外国人が求められるのが9桁の数字で構成された9で始まる個人納税者番号(ITIN) です。ITINを取得するには、納税、申告という税法規定の実行を伴う必要があります。

日本からの直接投資の形で米国内に保有していた不動産を、米国税法上の非居住外国人が売却処分する場合、原則として売値の15%の源泉徴収税が買い手によって抑えられIRSへ納付されます。州によっては、非居住者が不動産を売却する際、源泉徴収税または予定納税による税金納付を必要とする場合もあります。売却価格が取得費よりも低いため売却損になることがわかっていても、売り手がIRSから源泉徴収税の免除を認可する証明書の発行を受けない限り、15%源泉徴収税を回避することはできません。

15%源泉徴収税は最終的な税金ではなく、売り手は後日確定申告書フォーム1040NRを提出して、税金の清算をします。確定申告書に譲渡損益計算書と15%源泉徴収票フォーム8288-Aを添付して、税金の還付を受けるか、あるいは、追加払いをすることになります。15%源泉徴収税のIRSへの納付時に、ITIN申請書フォームW-7 とその他必要書類を添付提出して、ITIN を取得することが勧められます。(693)

双方居住者と外国税額控除

米国の永住権保持者が永住権を放棄せずに日本に住んでいる場合、所得税法上、日本の居住者であると同時に米国でも居住者となります。同一人物が二つの国で居住者に該当することを双方居住者(Dual Resident)と呼びます。日米両国とも、居住者は毎年全世界所得を報告して確定申告をする義務があります。日本に帰国後、永住権保持者の収入は日本だけであり、米国では収入がないため連邦税の申告はしなくてもいいと考えるのは正しくありません。

既に一方の国で課税された所得を再び他方の国で申告する際、必ず二重課税が発生するとは限りません。それは税法上、二重課税防止措置が海外在住者に与えられているためです。二重課税防止措置とは、「海外役務所得控除」と「外国税額控除」を指します。「海外役務所得控除」は一律10万4100ドル(2018年)を特別所得控除の形で所得から差し引いて課税免除とする規定です。フォーム2555に必要事項を記入して確定申告書フォーム1040に添付提出します。この控除の金額は、毎年インフレ調整されて増額します。

「外国税額控除」は一方の国で既に課税された所得を他方の国で再度報告することによって生じる税金を税額控除の形で合理的な枠の範囲内で課税免除にする規定です。双方の国の源泉所得に所得税が課せられた場合、それぞれの相手国で外国税額控除を適用することによる減税が可能となります。(690)

 

居住州と勤務州が異なる場合

居住している州と勤務している州が異なる場合、通常、居住州と勤務州の双方で所得税の申告を必要とします。それぞれの州において居住者・非居住者のどちらの身分形態で申告すべきかが問題になります。州の居住者・非居住者の定義は、連邦税法上の定義と異なります。連邦税法上、居住者となっても、州税法上、居住者になるとは限らないことにご注意ください。

勤務州には、非居住者の身分形態でその州源泉の収入(給与所得)を課税対象所得として報告し、計算した所得税を申告納税します。一方、居住州には、居住者の身分形態で連邦税法上報告した所得と同一の年間全所得を報告します。その際、勤務州で申告納税した税金について「他州税額控除」の形で控除を受けます。

他州税額控除は、勤務州の申告書上既に所得として報告して課税された税金によって、居住州の税金が相殺されて、二重課税の回避を達成するために設けられた州税計算上の仕組みです。連邦税法上、居住者の身分で全世界所得報告して申告納税する際、既に一度外国で課税された所得が含まれていると、外国税額控除の作用により二重課税の回避が認められます。他州税額控除は、この連邦税の外国税額控除の取り扱いに類似した規定です。(664)

永住権保持者の贈与税・遺産税上の取り扱い

永住権(グリーンカード)保持者は、所得税法上たえずResident Alien (居住外国人) として米国市民と同等の扱いを受けることは周知の通りです。永住権を保持していると自動的に米国居住者になるという決まりは、所得税の取り扱いについてだけ言えることであり、贈与税・遺産税の取り扱い上適用されないことはあまり知られていません。贈与税・遺産税法上、外国人の居住者・非居住者の判定には、Domicile (定住地) と呼ばれる概念が適用されます。 Domicile とは、本人がいずれは戻って来ると考えている故郷のような場所のことで、贈与税・遺産税法上、それが米国内にあれば「居住者」、米国外にあれば「非居住者」 と判定されます。本人の意思に基づくこの主観的な判定基準を適用すると、ビザで米国に滞在する全ての外国人は、Domicileが米国にないため非居住者となります。老後米国滞在を続けるか帰国するか定かでない永住権保持者も、非居住者になります。国際結婚をして子供は米国籍であり、死後本人は米国のお墓に入るつもりの永住権保持者は、居住者と判定されます。

米国市民に認められる連邦遺産税の基礎控除は1,120万ドル(2018年)です。米国を Domicile とする永住権保持者(居住外国人) にも 1,120万ドルの非課税枠の全額が認められます。非居住外国人は日米遺産税条約第4条の適用により、米国内遺産が全世界遺産に占める割合で計算した按分配賦額 (1,120万ドルの一部) を非課税にすることができます。(663)

永住権保持者はたえず居住者


税法上、グリーンカード(永住権)保持者は米国市民と同等の扱いを受けます。通常、アメリカに滞在する外国人は、「実質的滞在条件」の判定基準によって年間の滞在日数が183日以上であれば居住者、183日未満であれば非居住者となります。永住権保持者は、この判定基準の適用外と定められていて、アメリカ滞在日数にかかわりなく、たえず居住者とされます。

たとえば日本に帰国して一年中アメリカ国外にいたとしても、永住権の放棄をしない限り、米国所得税法上の居住者として扱われます。つまり、いったん永住権を取得すると、その後はアメリカ国内、国外のどこに住んでいても、年間の全世界所得をアメリカにおいて申告する義務が生じるということです。日本へ帰国後、永住権保持者の収入は日本だけであり、アメリカでは収入がないため、連邦税の申告はしなくてもいいと考えるのは正しくありません。

既に日本で課税された所得を再びアメリカでも申告する場合、必ず二重課税が発生するとは限りません。それは海外在住者に与えられる二重課税防止措置である海外役務所得控除の作用によるためです。 (661)

双方居住者と外国税額控除 Dual Resident and Foreign Tax Credit

<双方居住者と外国税額控除 Dual Resident and Foreign Tax Credit>

 米国の永住権保持者が永住権を放棄せずに日本に住んでいる場合、税法上、日本の居住者であると同時に米国でも居住者となります。同一人物が二つの国で居住者に該当することを双方居住者(Dual Resident)と呼びます。日米両国とも、居住者は毎年全世界所得を報告して確定申告をする義務があります。日本に帰国後、永住権保持者の収入は日本だけであり、米国では収入がないため連邦税の申告はしなくてもいいと考えるのは正しくありません。

 既に一方の国で課税された所得を再び他方の国で申告する際、必ず二重課税が発生するとは限りません。それは税法上、二重課税防止措置が海外在住者に与えられているためです。二重課税防止措置とは、「海外役務所得控除」と「外国税額控除」を指します。「海外役務所得控除」は一律9万5100ドル〈2012年〉を所得控除の形で非課税扱いとする規定です。「外国税額控除」は一方の国で既に課税された所得を他方の国で再度報告することによって生じる税金から税額控除の形で合理的な枠の範囲内で課税免除にする規定です。双方の国の源泉所得に所得税が課せらた場合、それぞれの相手国で外国税額控除を適用することによる減税が可能です。(383)

永住権保持者の贈与税・遺産税 Permanent Resident and Gift/Estate Tax

<永住権保持者の贈与税・遺産税 Permanent Resident and Gift/Estate Tax>

 永住権(グリーンカード)保持者は、所得税法上、米国居住者として米国市民と同等の扱いを受け、全世界所得が課税の対象となることは周知の通りです。永住権を保持していると自動的に「居住者」となるのは所得税の取り扱いであり、贈与税・遺産税では永住権保持者が米国市民と同等の扱いを受けるとは限りません。贈与税・遺産税法上、Domicile (定住地) と呼ばれる、所得税とは異なる「居住者」の定義が適用されるためです。定住地とは、本人がいずれは戻って来ると考えている故郷のような場所のことで、それが米国内にあれば「居住者」、米国外にあれば「非居住者」となります。そのため、ビザで米国に滞在する全ての外国人および多くの永住権保持者は、贈与税・遺産税法上非居住外国人と判定されます。

非居住外国人と判定される永住権保持者は、連邦遺産税の基礎控除額として6万ドルだけが認められ、米国市民に適用される534万ドル(2014年)の非課税額は認められません。同様に、連邦贈与税の基礎控除額として受贈者一人当たり1万4000ドルだけが認められ、米国市民に適用される534万ドル(2014年)の生涯非課税贈与額は認められません。非居住外国人は、贈与税・遺産税の基礎控除額が大幅に制限される一方、課税対象となる贈与・遺産として米国内資産だけが含まれることとなっています。居住者・非居住者の税法上の身分と非課税枠との関係や財産の所在国などについて事前に計画することによる贈与税・相続税の合法的な節税が勧められます。また、日米贈与相続税条約を適用することによる節税も考慮する必要があります。(303)

非居住者として扱われるビザ   Visas Treated as Nonresident

<非居住者として扱われるビザ   Visas Treated as Nonresident>

 Aビザ、Gビザ、Fビザ、Jビザ、Mビザ、Qビザ保持者は、滞在日数が183日を超えても居住者としてではなく、通常、非居住者として扱われます。Aビザ (外交官) およびGビザ(国際機関職員) の場合、年数に制限なくどんなに長い間米国に滞在していても、たえず非居住者となります。日本政府や国際機関から支給される報酬は非課税(内国歳入法第893条)、関連報酬以外のその他の所得は課税対象となります。

 F(学生)、J(交流訪問者)、M(専門学校学生)、Q(交換訪問者)のビザで学生としてアメリカに滞在する場合は、入国から5年間については非居住者として扱われ、5年経過後には183日を基準とする「実質的滞在条件」が適用されて、非居住者あるいは居住者となります。またJビザ、Qビザによる教授または研究者は、入国から2年間について非居住者として扱われ、それ以降は「実質的滞在条件」が適用されます。(286)

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