永住権保持者は居住者

税法上、グリーンカード(永住権)保持者は米国市民と同等の扱いを受けます。通常、アメリカに滞在する外国人は、「実質的滞在条件」の判定基準によって滞在日数が183日以上であれば居住者、183日未満であれば非居住者となります。永住権保持者は、この判定基準の適用外と定められていて、アメリカ滞在日数にかかわりなくたえず居住者とされます。グリーンカード保持者が必ず居住者になるのは、所得税法の決まりであり、遺産税法上はそれとは異なる既定の適用により、居住者または非居住者になります。

たとえば日本に帰国して一年中アメリカ国外にいたとしても、永住権の放棄をしない限り、米国税法上の居住者として扱われます。つまり、いったん永住権を取得すると、その後はアメリカ国内、国外のどこに住んでいても、年間の全世界所得をアメリカにおいて申告する義務が生じるということです。日本に帰国後、永住権保持者の収入は日本だけであり、アメリカでは収入がないため、連邦税の申告はしなくてもいいと考えるのは正しくありません。

既に日本で課税された所得を再びアメリカでも申告する場合、必ず二重課税が発生するとはで限りません。それは海外在住者に与えられる二重課税防止措置の作用によるためです。(671)

日本在住の永住権保持者の税務

永住権保持者が永住権を放棄せずに日本に住んでいる場合、日本の居住者として日本で全世界所得に対して税金が課せられると同時に、米国税法上、米国居住者として米国での所得税申告を行う義務があります。その際、同一所得に対して二つの国から徴税されて二重課税を被る可能性が生じます。二重課税の救済措置として定められたのが、「海外役務所得控除」と「外国税額控除」の規定です。海外に居住する米国国籍者に適用される米国規定が、海外に住む永住権保持者にも適用されるのです。

「海外役務所得控除」は、海外で得た給与や自営業事業所得などの役務所得について一定額を非課税所得として扱い、その金額を所得から削除することによって税金を軽減する制度です。一定金額とは、2017年は10万2100ドル、2018年は10万4100ドルであり、2019年以降もインフレ調整により毎年増額予定です。この所得控除の適用を受けるためには、外国の居住権取得後1暦年以上経過していること(居住条件)、あるいは、外国での実際の滞在日数が12カ月のうち330日以上であったこと(実際滞在条件)のいずれかの条件を満たす必要があります。フォーム2555参照。「外国税額控除」は、すでに外国で課税された所得に再度計算される連邦税を税額控除の形で、税額から差し引いて課税免除する方式です。「海外役務所得控除」の枠外に適用される控除です。(662)

 

永住権放棄者に対する30%源泉課税 30% Withholding Tax on Pension

<永住権放棄者に対する30%源泉課税 30 Withholding Tax on Pension>

 該当出国者 (放棄者・離脱者) が保有する課税繰延報酬、すなわちペンションプランや401(k)プランなどの適格退職基金には、時価評価譲渡税とは異なる種類の課税方式が適用となります。適格な課税繰延報酬は、分配金が支払われる度に分配金の30%相当額が源泉徴収されます。ただし、30%源泉徴収方式の適用を受けるためには、繰延報酬に適用される租税条約の優遇措置の行使権を放棄しなければなりません。また、該当出国者が米国市民または米国居住者ではなかった期間の米国外の役務提供に帰属する繰延報酬は、30%源泉徴収税の対象とはなりません。

適格でない課税繰延資産(IRA、Qualified Tuition Program、HAS、MSAなど)は、放棄日・離脱日の前日付で該当出国者にその全額が分配されたことと見なされて、課税対象分が通常の所得税の対象となります。このみなし分配は、10%早期分配税の対象とはなりません。該当出国者が信託の所有者である場合は、その信託財産は時価評価譲渡税の対象となります。該当出国者が信託の所有者でない場合は、その信託からの分配金は30%源泉徴収税の対象となります。(239)

海外在住者の州税問題 Foreign Address and State Tax

<海外在住者の州税問題 Foreign Address and State Tax>

 米国で働いて所得を得ている人は、連邦IRSと州の税務署に所得税の申告書を提出します。米国外(例えば日本)に住み外国所得を得ている米国籍保持者および永住権保持者は、居住国での税金処理のほかに連邦所得税の申告義務あることは周知の通りです。外国に住んでいる納税者が遭遇する州税の問題について検討します。

永住権保持者は連邦税法上、居住外国人と定義されているため、米国に住んでいなくても米国の居住者として全世界所得を申告しなければなりません。州税法では、永住権を居住者の決定要件とする連邦税法の影響を受けることなく、主に滞在日数基準によって居住者または非居住者に分類されます。永住権保持者が日本に住んでいる場合は、州税法上は非居住者となり、州の源泉所得がない限り納税申告義務は生じません。日本での所得も、課税対象外であるため申告の必要がありません。

日本に住んでいる永住権保持者が提出する連邦所得税申告書上、米国の住所を記載している場合に州税の問題が生じることがあります。州の税務当局は、連邦税と州税の申告書の住所、氏名を照合して、申告不履行の摘発調査を行っています。州当局から、「州税申告書が提出されていないため、当方で把握している所得に基づいて税金とペナルティーを計算した。早急に対応をされたし。」との通知が送られてきます。米国に住んでいない場合は、州税務当局の誤解を招かないように、実際に住んでいる日本の住所を載せて、米国の住所は使わないことが勧められます。(433)

永住権が非居住者になる場合 Green Card Treated as Nonresident

<永住権が非居住者になる場合 Green Card Treated as Nonresident>

永住権(グリーンカード)保持者は、たえずResident Alien (居住外国人)として米国市民と同等の扱いを受けることは周知の事実です。永住権を保持していると自動的に米国居住者になるという決まりは、所得税の取り扱いについてだけ言えることであり、贈与税・遺産税の取り扱い上適用されないことはあまり知られていません。永住権の扱いが贈与税・遺産税と所得税とで異なることは、米国税法第7701(b)(1)に「贈与税・遺産税を除く」と読み取れる記述によって確認できます。

贈与税・遺産税法上、外国人の居住者・非居住者の判定には、Domicile (定住地) と呼ばれる概念が適用されます。定住地とは、本人がいずれは戻って来ると考えている故郷のような場所のことで、それが米国内にあれば「居住者」、米国外にあれば「非居住者」と判定されます。本人の意思に基づく主観的な判定基準を適用すると、ビザで米国に滞在する全ての外国人は、定住地が米国にないため非居住者となります。老後米国滞在を続けるか帰国するか定かでない永住権保持者も、非居住者になります。国際結婚をして子供は米国籍、死後は米国のお墓に入るつもりの永住権保持者は、居住者と判定されます。

米国市民に認められる連邦遺産税の基礎控除は2013年525万ドル、2014年534万ドルです。米国を定住地Domicileとする居住外国人にも534万ドルの非課税額の全額が認められます。非居住外国人は日米贈与税・遺産税条約第4条の適用により、米国内遺産が全世界遺産に占める割合で計算した534万ドルの一部を非課税にすることができます。(431)

外国在住の永住権保持者と州税 Foreign Residence and State Tax

<外国在住の永住権保持者と州税 Foreign Residence and State Tax>

 グリーンカード(永住権)保持者は、所得税法上米国市民と同等の扱いを受け、たとえ一年中日本に住んでいたとしても、米国居住者として米国において年間の全世界所得を申告する義務を負います。いわゆる双方居住者として、日米両国で税金申告をしなければなりません。永住権以外の外国人が米国外に居住していれば必ず非居住外国人となり、米国源泉所得がない限り米国での税金は発生しないのとは大違いです。

 日本に居住する永住権保持者の州税上の取り扱いをどのようにすべきか検討します。申告書上の住所として、住んでいた住所や他から借りた米国内の住所を記載している場合を見かけますが、税法上あまり勧められる方法ではありません。州からの不動産所得がなく居住していなければ、州所得税の申告・納税の義務がありません。それにもかかわらず、住所が州内にあるため州の税務当局から申告書の提出と納税を求められ、その通知を取り下げるのに無駄な時間と努力を必要とします。連邦所得税は、海外役務所得控除や外国税額控除の適用によって二重課税の問題が解決される仕組みとなっていて、税金は殆ど発生しません。州所得税上はこれらの控除が認められない場合が多く、多額の追徴税が計算されます。海外に居住する永住権保持者は、米国の申告書上の住所として海外の住所を記載して申告すべきです。(385)

海外役務所得控除 Foreign Earned Income Exclusion

<海外役務所得控除  Foreign Earned Income Exclusion>

 永住権保持者は、米国外(例えば日本)に住んでいる場合でも所得税法上米国居住者として全世界所得を申告する義務があります。その際、同一所得に対して二つの国から徴税される二重課税の可能性が生じます。二重課税の救済措置として定められたのが、「海外役務所得控除」と「外国税額控除」の規定です。米国市民で海外在住者に適用される規定が、海外に住む永住権保持者にも適用が認められます。

「海外役務所得控除」は、海外で得た給与や自営業事業所得などの役務所得について一定額を非課税所得として扱い、その金額を所得から削除することにより税金を軽減します。一定金額とは、2009年は9万1400ドル、2010年は9万1500ドルで、2011年以降もインフレ調整により増額予定です。この所得控除の適用を受けるためには、外国の居住権を取得して1暦年以上経っていること(居住条件)、あるいは、外国での実際の滞在日数が12カ月のうち330日以上であったこと(実際滞在条件)のいずれかの条件を満たさなければなりません。フォーム2555に必要事項を記入して、申告書フォーム1040に添付して提出します。

「外国税額控除」は、すでに外国で課税された所得に再度計算される連邦税を税額控除の形で、税額から差し引いて課税免除する方式です。「海外役務所得控除」の枠外に適用される控除です。フォーム1116に必要事項を記入して、申告書フォーム1040に添付して提出します。(313)

永住権か市民権か Green Card or Citizenship?

<永住権か市民権か   Green Card or Citizenship?>

 永住権放棄者に関する新規定の発効に伴って、米国の永住権と市民権とではどちらが税金上有利かという議論が再燃しています。永住権が不利であるという従来の論点は、贈与や相続を受け取る配偶者が市民権を有する場合、婚姻控除(Marital deduction) の適用により夫婦間の財産移転が無税で行うことが可能であるのに対して、永住権配偶者には婚姻控除が認められないため有税移転となって損になるというものでした。所得税の取り扱いは、永住権と市民権との間で平等でしたが、新規定下では永住権は市民権よりも不利となります。

永住権保持者が再入国許可の期間を超えて長期にわたって海外(例えば日本)に住むと、グリーンカードの返還、すなわち永住権放棄を余儀なくされます。一定条件に該当する永住権放棄者は「該当出国者」となり、「出国税」(すべての全世界資産を譲渡(売却)したならば得られる譲渡益にかかる時価評価譲渡税)を支払う義務があります。永住権のかわりに米国籍を保持していれば、どんなに長期間海外に住んでも国籍離脱をしない限り、出国税を支払う必要はありません。海外に長期間住む予定の永住権保持者は(二重国籍の問題は別として)米国籍を取得することが得策と言えます。(241)

贈与・遺贈の受益者課税 New Tax on Gift/Bequest

<贈与・遺贈の受益者課税 New Tax on Gift/Bequest>

 永住権放棄者・国籍離脱者に関する新規定の中に、米国遺産税・贈与税の分野にこれまで全く適用されたことがなかった受益者課税の概念を新たに導入しました。日本では受贈者が贈与税の納税義務者であるのに対して、米国ではその逆に原則として、贈与を与えた贈与者が贈与税の納税義務者となります。同様に日本では相続人が相続税の納税義務者であるのに対して、米国では原側として、遺された遺産財団すなわち被相続人が遺産税の納税義務者となります。受贈者や受遺者、相続人が納税義務者となる受益者課税は、本来米国にはなかった概念であり、新規定に含まれている受益者課税は、米国の遺産税・贈与税の原則からの逸脱と言えます。

米国市民または居住外国人が、該当出国者(放棄者・離脱者)から贈与または遺贈や相続を受け取った場合、受贈者・受遺者は、米国遺産税・贈与税の最高税率(2014年45%)で計算した税金を納付する義務があります。その際、基礎控除額(年間非課税贈与額 2013年、2014年$14,000、2015年以降インフレ調整の金額)の控除が認められます。(240)

出国税 Exit Tax

<出国税 Exit Tax>

 該当出国者 (放棄者・離脱者)は、出国前の前日に特定の例外を除くすべての全世界資産を譲渡(売却)したならば得られるみなし譲渡益が、基礎控除額(2013年$668,000、2014年$680,000、2015年以降インフレ調整額)を超過した金額に、適用税率を掛け合わせて計算した時価評価譲渡税(出国税)を、一定期限内(通常の申告書提出期限)までにIRSへ支払う義務があります。みなし譲渡益の計算上、税法の他の条項に基づく免税措置(例えば、住宅売却益の非課税措置)等は勘案されず無視されます。実際に資産を売却した年度に、時価評価譲渡税と実額課税との間の差額は、還付または追納による調整が施されます。

該当出国者が外国生まれの場合、時価評価譲渡税の計算上、選択により米国入国前(非居住者時代)の取得費のかわりに、米国居住者になった日の時価評価額を用いることが認められます。この選択は、資産の米国内での値上がり含み益についてのみ課税を受ける効果があります。

出国年度の申告納付期限を、選択により各資産の売却年度まで延長することが認められます。この選択には、納税保証書の提出、納税遅延に対する延滞利息の支払、租税条約の恩典行使権の放棄が伴います。(238)

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