日本の相続税99-相続 遺言と異なる遺産分割

<日本の相続(99)-遺言と異なる遺産分割>

遺言書を残しても、相続人の意思で遺言内容が実現しないことがあります。どの遺産を誰が受け取るか、個々の相続分をどうするかなど、遺産の分割は、遺言があれば遺言者の指定(指定相続分)に従った割合で分割するのが原則です。ところが、相続人が話し合い、全員がその変更に合意すれば、遺言者の指定内容とは異なる相続分や遺産分割をすることもできます。相続人の遺産分割に関する話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。

遺言者にできることといえば、遺言書に「自分の意思を尊重して欲しい」と書き残して相続人の情に訴えるか、遺言執行者を指定しておくしかありません。遺言執行者は原則として、遺言内容通りの執行をする義務があるからです。しかし、相続人全員の合意による遺産分割協議がまとまった場合など、遺言執行者も相続人の意思を尊重して、その合意を追認する場合もあります。この観点から、より多くの財産を特定の相続人に分け与えたいという場合、やはり生前贈与が最も確実な方法と言えます。

認知や遺贈、あるいは寄付行為などの指定がある場合には、その遺言内容が優先されます。相続人は全員の合意があっても、その執行よる遺産の移動を妨害できません。(204)

日本の相続税98-相続 複数の遺言書

<日本の相続(98)-複数の遺言書>

 遺言者の死亡後、複数の遺言書が見付かり、その内容が抵触する場合、遺言書の優先順序が決められています。新旧の遺言書の内容が重なる場合は、新しい遺言によって古い遺言は取り消されたものと見なされます(民法1023条)。遺言書が何通出てきても、一番最後に作成された遺言書、すなわち日付の新しい遺言書が有効な遺言となります。新旧の遺言書の内容が抵触しない部分については、古い遺言に書かれたことも有効になります。

遺言が取り消されたものとして扱われる場合は、次の通りです。

・         後の遺言によって、前に作成した遺言を撤回する旨の遺言をする。

・         後の遺言によって、前の遺言内容に反する遺言をする。

・         遺言をした後に、生前に遺言内容に反する処分行為(遺言の目的物を売却するなど)をする。

・         遺言者が故意に遺言書を破棄する(破り捨てる、焼却する、塗りつぶす、押印なく訂正する)。

・         遺言者が遺贈の目的物を破棄する。

 詐欺または脅迫によって遺言書が作成されたことが遺言者の死亡後に判明した場合は、相続人は、その遺言の取消しを請求することができます。(203)

日本の相続税97-相続 負担付遺贈

<日本の相続(97)-負担付遺贈>

 遺言により人に財産を譲ることを遺贈と言います。一般的に遺贈は無償が建前であり、受遺者には代償の支払義務はありません。しかし、遺言者が受遺者に対して代賞の支払い(反対給付)を義務付ける負担付遺贈をすることもできます。遺贈を受けることを承認した受遺者は、反対給付の負担を履行する義務を負います(民法1002条)。

例えば、友人に財産の一部を遺贈する代わりに、遺言者の未成年の息子が大學を卒業するまで学費の支払いの面倒を見てもらいたいという反対給付の条件を付けたとします。友人が遺贈を受け取った場合には、遺族の学費の面倒を見る義務を負います。ただし、受遺者の負担は、遺贈された財産の価格を超えない範囲内です。遺増を受け取りながら負担を履行しない(学費を払わない)場合、相続人または遺言執行者は相当の期間を定めて履行を催告でき、履行がないときは遺言の取消しを家庭裁判所に請求できます。

受遺者が遺贈を放棄した場合、負担履行義務がないことは言うまでもありません。その場合、負担の利益を受けるべき者(息子)は自ら受益者になることができます。ただし、遺言者が遺言で別段の意思表示をしたときはそれに従わなければなりません。(202)

日本の相続税96-相続 遺贈の受理と放棄

<日本の相続(96)-遺贈の受理と放棄>

 自分の財産を遺言により無償で特定の人に与えることを遺贈と言います。相続人以外の人、例えば内縁関係者や、身の回りの世話や介護をしてくれた息子の嫁に、遺言による贈与である遺贈によって財産を渡すことができます。遺贈を受ける人を受遺者と呼びますが、受遺者は相続人以外の個人ばかりでなく、相続人でも会社や学校などの法人・団体でもかまいません。

法律上、一定の割合で遺産を与える包括遺贈と、特定の財産だけを与える特定遺贈がありますが、どのような内容の遺贈にするかは遺言者の自由です。ただし、相続人の遺留分を侵害するような遺贈はできません(民法964条)。遺留分を侵害した場合には、遺留分権者の相続人から遺留分減殺請求を受けて、財産の一部を返却しなければなりません。

遺贈の法律的な効力の開始時期は、遺言者の死亡時点です。遺贈は、原則として受遺者の承諾を必要としませんが、それを受けるか放棄するかは、受遺者の自由です。放棄できる期間は、包括遺贈と特定遺贈とで異なり、包括遺贈では受遺者が遺贈を知った時から3ヵ月以内であり、特定遺贈では催告の期間内(催告がなければ無期限)です。催告とは、相続人が受遺者に対して遺贈を承認するか放棄するか一定期間内に意思表示を求めることを言います。(201)

日本の相続税95-相続 遺言書の検認

<日本の相続(95)-遺言書の検認>

 遺言書が見つかった場合、封印してあれば開けずに、封印していなければそのまま、速やかに家庭裁判所へ提出して検認の申し立てをします。家庭裁判所は相続人またはその代理人に検認期日の通知をします。関係者立会いの下、遺言書は開封され、検認されます。検認とは、遺言書の形式や状態を調査して、変造防止のため検認調書という公認文書にすることです。検認手続終了後、家庭裁判所は検認に立ち会わなかった申立人や相続人、受遺者、その他の利害関係者に対して検認した旨の通知をします。検認をしないで開封したり、相続を進めたりすると、5万円以下の罰金に科せられたり、不動産が相続できなかったりします。

 公正証書遺言は公証人役場に保管されていて、相続開始後すぐに適用されます。公証人に作成してもらった時点で公文書扱いとなりますから、検認の必要はありません。検認を必要とするのは、公正証書遺言以外の自筆証書遺言や秘密証書遺言、その他の方式による遺言の場合です(民法1004条)。

遺言書が二通以上見つかった場合は、一番新しく書かれた遺言書が適用されます。開封することはできないので、日付不明のまま見つかった遺言書はすべて家庭裁判所に持ち込みます。(200)

日本の相続税94-相続 遺言の撤回

<日本の相続(94)-遺言の撤回>

 遺言者は、いつでも自由に遺言の全部または一部を撤回(取り消し)することができます。また、遺言を撤回する権利を放棄することはできず、たとえ撤回しない旨を遺言書に記載したり、あるいは利害関係人に約束したりしていても、拘束されることはありません。遺言の撤回を詐欺または脅迫によって妨げた者は、相続欠格者とされ、相続の対象外となります。

遺言の撤回は、遺言による方法と行為による方法があります。

1.     遺言による方法

・ 前の遺言の全部または一部を撤回する新しい遺言を作成すると、前の遺言は初めからなかったことになります。

・ 前の遺言に反する新しい遺言を作成すると、反する部分については、新しい遺言が優先され、前の遺言は新しい遺言により撤回されたことになります。

2.     行為による方法

・ 遺言に反する生前処分(譲渡、寄付、売買など)を行うと、反する部分は撤回されたことになります。

・ 遺言者が故意に遺言書を破棄した場合、遺言内容は撤回されたものとみなされます。遺言者の過失、第三者の行為または不可抗力による破棄は、撤回の効力がありません。

・ 遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄した場合、その遺贈は撤回されたことになります。(199)

日本の相続税93-相続 無効な遺言

<日本の相続(93)-無効な遺言>    

形式や内容が法律的に不備な遺言は、次の通り無効とされます。

● 遺言能力を欠く者の遺言

満15歳に達しない者の遺言は、当然に無効です。

● 形式面で不備のある遺言

民法に規定された遺言方式に準じて作られていない場合、無効になります。口頭によるものやテープに収録してあるものは一切法的効力がありません。苦労して書いた遺言も日付や印がないものや、訂正や加除の方法が間違っているものは無効です。

● 内容が実行不可能や特定不可能な遺言

例えば、現実には存在しないものを遺贈する旨の遺言など。遺言の目的物が具体的に記載さていないものや内容が単一で明確でないもの、誤解を生じる余地のあるものは無効になります。

● 詐欺や脅迫によって作成された遺言

だまされて、もしくは脅かされて作成された疑いのある遺言は無効です。

● 変造・捏造された遺言

自筆証書遺言に起こる問題です。公正証書遺言ならば変造・捏造の心配はありません。

● 公序良俗に反する遺言、錯誤に基づく遺言

犯罪行為や違反行為につながる場合、その記述が無効になります。内容の重要部分に重大な勘違いがあった場合、その部分が無効になります。(198)

日本の相続税92-相続 遺言能力

<日本の相続(92)-遺言能力>

遺言は、法律上、満15歳に達した者で、正常な判断能力があれば誰でも作成することができます(民法961条)。遺言者は遺言作成時に、遺言能力を有することが必要とされます(民法963条)。遺言能力とは、遺言を有効にすることのできる意思能力であり、それは自己の行為の結果を判断することのできる精神能力のこととされています。

精神病、強度のノイローゼ、酩酊状態などのときに行った遺言は、遺言能力がなかったとされ、遺言は無効とになる場合があります。ただし、遺言能力は遺言をするときに備わっていればよく、その後に判断能力を欠く状態になったとしても遺言の効力には影響はありません。

公証人が病院などに出張して作成した遺言書の場合、遺言者は遺言当時、痴呆状態であり、遺言する能力はなかったからその遺言は無効であるという争いが生じることがあります。このような争いが生じる理由として、現実的には一部の相続人に促されて遺言する場合があるからです。実際、このような争いになった場合、病名や年齢だけでは判断されず、それぞれの痴呆の進行度によって判断せざるを得ません。争いを避けるために、遺言の際に医師の診断書とっておくことが勧められます。(197)

日本の相続税91-相続 遺言による分割、認知、信託設定

<日本の相続(91)-遺言による分割、認知、信託設定>

  • 同族会社や個人事業経営者で、後継者を指定しておきたい

同族会社や個人事業、農業などに従事していて、営業上の財産が法律上も個人の財産である場合、死亡後、株式や債権が複数の法定相続人に分散してしまうと、事業継承が困難になります。このような事態を招くことに備えて、後継者に事業上の財産を相続させる旨の遺言が必要です(民法908条)。

  • 再婚をし、先妻の子と後妻がいる

先妻の子と後妻との間では、とかく感情的になりやすく、極めて高い確率で遺産争いが起こります。争いの発

生を防ぐため、遺言できちんと分け与える財産を指定しておく必要があります(民法906条)。

  • 認知したい子がいる

認知していなかった子を遺言で認知して、財産を残すことができます(民法781条2項)。認知を受けた子(非嫡出子)の法定相続分は、嫡出子(正規婚の子)の法定相続分の2分の1です。法律婚の子と平等に相続させるには、遺言にその旨の記述が必要です。

  • 別居中で事実上離婚状態にある配偶者がいる

別居中であろうと離婚訴訟中であろうと、未だ法的に離婚が成立していなければ、配偶者は相続権を有しています。遺言によって「妻には相続させない」旨の記載があれば、遺留分(4分の1)だけの相続になります。

  • 信託設定して将来の生活保障する

遺言信託の形で財産を残し、認知症の妻のために信託から利益が定期的に振り込まれるようにすることができます。(196)

日本の相続税90-相続 遺言遺贈

<日本の相続(90)-遺言遺贈>

  • 子の嫁に財産を与えたい

息子夫婦に子がないまま息子が死亡し、嫁ぎ先で亡夫の父母の面倒を親身になって見ている嫁がいます。法定相続人でない嫁にも財産を分けてあげたい場合、遺言で遺贈し、恩に報いることができます(民法964条)。

  • 相続権のない人に遺産を与えたい

可愛い孫に遺産を分けたい場合、生前世話になった第三者や兄弟姉妹、恩人に財産を分けて感謝の念を表したい場合など、遺言で遺贈できます。

  • 内縁関係の相手に遺産を遺したい

内縁関係(事実婚)の場合、どんなに長く一緒にいても相続権は得られません。財産はすべて亡くなった相手の法廷相続人に相続されます。内縁関係者や認知していない子に遺産を遺すためには、遺言が必要です。

  • 遺産を公益事業に役立たせたい

身寄りがなく相続人が全くいない場合は、特別な事情がない限り、遺産は国庫に帰属します。それを望まないなら、特別世話になった人に遺贈するとか、お寺や教会、有意義と感じる社会福祉団体、自然保護団体、各種研究機関等に寄付する((民法第959条)旨の遺言をしておく必要があります。(195)

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