非居住外国人による米国不動産の賃貸 Real Estate Rental by Nonresident Alien

<非居住外国人による米国不動産の賃貸 Real Estate Rental by Nonresident Alien>

 日本人が帰国の際それまで住んでいた米国の持ち家を売らずに、人に貸して賃貸収入を得る場合の税務について検討します。日本に住む日本人が米国から賃貸収入を受け取る場合、米国と日本の両国で所得税が課税されます。州税の申告・納税も忘れてはなりません。日本と米国の双方で税金を納めることになった場合、米国側で支払った税金について外国税額控除の形で日本の税金から差し引くことにより、二重課税の回避が達成されます。日本あるいは米国のいずれかの国で税金が納められていれば、それでよしとする考え方は正しくありません。

通常、米国、日本とも、年間家賃収入から固定資産税、支払利子、修繕費、管理費、維持費、保険料、減価償却費などの必要経費を差し引いてネットレント純利益を算出し、その金額を確定申告書に報告して税金を計算します。2013年の所得税の税率は、米国の連邦税が10%~39.6%までの7段階の累進税率であり、日本の所得税が5%~45%までの7段階の累進税率です。ネットレントが黒字ではなく赤字になった場合は、税金は発生しません。米国には「ネットレント課税方式」の他に、必要経費を差し引かずに賃貸収入に30%を掛け合わせた金額を最終税金とする「源泉徴収課税方式」がありますが、税金が高く計算されて得にならないため、殆ど採用されることはありません。(449)

日米で異なる減価償却費の計算 Depreciation – U.S. and Japan

<日米で異なる減価償却費の計算 Depreciation – U.S. and Japan>

住宅を人に貸してレント収入を受け取っている場合、レント収入から管理費、固定資産税、支払利子、修繕費、減価償却費などの必要経費を差し引いてネット・レントを算出する必要があります。米国の居住者による賃貸不動産所得の計算方法は、日本の居住者が米国の非居住外国人の身分で米国不動産に直接投資を行う場合と同一の方法です。必要経費の一つである減価償却費は、建物の購入代金(取得費)を建物が使用できるであろう期間(耐用年数)にわたって配分し、経費にしていく方法によって計算します。

米国税法上、賃貸不動産の減価償却費の計算上、鉄筋、木造、新築、中古の区別なく、耐用年数については一様に27.5年が、そして償却方法については定額法が適用されます。米国に賃貸不動産を所有する日本在住者は、日本でも米国の賃貸不動産所得を申告する義務があります。その際気を付けなければならないのが、減価償却費の計算の違いです。日本では、鉄筋、木造、新築、中古不動産の種類によって異なる耐用年数が適用されます。例えば、木造モルタル住宅は20年、鉄骨鉄筋住宅は47年が法定耐用年数として定められているという具合です。法定耐用年数の一部または全部を経過した中古物件を購入した場合は、残存耐用年数が使われ、その結果として多額の金額(加速償却費)が計算されます。日米間の耐用年数の違いにより、同一物件であるにもかかわらず二国間で全く異なる損益を申告することになります。(430)

非居住外国人による不動産所得の申告 Nonresident Alien Reporting Rental Income

<非居住外国人による不動産所得の申告 Nonresident Alien Reporting Rental Income>

米国不動産に直接投資しネット・レント課税方式を選択した日本在住の個人投資家は、米国において毎年確定申告書を提出して不動産賃貸所得を報告する義務があります。非居住外国人用の個人所得税申告書フォーム1040NRに不動産収支内訳書スケジュールEを添付して、期限日4月15日までにIRSに提出します。スケジュールEには、家賃収入から、固定資産税、支払利子、修繕費、管理費、維持費、保険料、周旋手数料、減価償却費などのあらゆる必要経費を差し引いた純利益または損失を記載します。他に利子所得、パートナーシップ所得、LLC所得など申告すべき所得があればそれらを列記して、所得の合計額から基礎控除(2013年3,900ドル、2014年3,950ドル)を差し引いて算出した課税所得に、税率を掛け合わせて連邦所得税を計算します。賃貸収入よりも必要経費が多いため不動産所得が赤字になる年度でも、必ず確定申告する必要があります。

米国ではソーシャル・セキュリティー番号が納税者番号の役目を果たしますが、非居住外国人にはソーシャル・セキュリティー番号の取得が許されません。非居住外国人は、そのかわりIRSが発行する個人納税者番号を取得することができます。初年度の確定申告時に、申請フォームW-7を提出して個人納税者番号を取得します。

不動産がある州での確定申告書の提出、日米間の減価償却計算の違い、円ドル為替レートの違い、日本での確定申告書の提出、外国税額控除による二重課税の回避に関して注意を要します。(396)

居住用賃貸不動産の減価償却 Depreciation of Residential Rental Property

<居住用賃貸不動産の減価償却 Depreciation of Residential Rental Property>

不動産賃貸所得を算出する際、収入から差し引かれる必要経費のひとつに減価償却費があります。減価償却費は、他の必要経費と異なり現金の支出を伴わないため実際には収益の削減を生じさせません。税金計算上控除として認められて減税効果をもたらし、その結果、キャッシュフローを生み出します。

家やコンドミニアムの購入価格から土地部分を除いた建物部分に相当する金額を、資産が使用できる耐用年数の期間にわたって、毎年小額ずつ費用化していく方法のことを減価償却と呼びます。その計算の結果年間の費用とされるのが減価償却費です。すなわち、不動産を事業の用に供した最初の年度に不動産の取得費を必要経費として一括費用計上するのではなく、年の経過によって不動産の価値が経済的、物理的に減少する期間にわたって配分計算して必要経費化していきます。

米国税法上、居住用賃貸不動産の減価償却の「耐用年数」は、鉄筋、木造、新築、中古の区別なく一律27.5年と定められています。日本の規定では、木造、木造モルタル、鉄筋鉄骨など建築の種類によって20~47年の異なる年数を使用します。米国では中古物件であっても、一様に新築不動産と同じ27.5年を適用しますが、日本では残存耐用年数を参考に減価償却します。米国外にある不動産の場合、40年で減価償却します。「償却方法」は、米国資産、海外資産とも定額法を適用して計算することと定められています。賃貸住宅用家具は5年で、定率法を適用して償却します。(395)

直接米国不動産投資・個人対法人 Direct Investment in U.S. Real Estate

<直接米国不動産投資・個人対法人 Direct Investment in U.S. Real Estate>

日本からの直接投資によって米国不動産を取得して賃貸活動を行う場合、個人所有にすべきか法人所有にすべきか検討します。

米国および日本での不動産賃貸所得は、賃貸収入から維持管理費、固定資産税、修繕費、保険料、支払利子、減価償却費などの必要経費を差し引いて計算します。この不動産賃貸所得の計算は、個人の連邦税と法人の連邦税との間での違いはありません。

州の法人税は少し話が込み入っていて、不動産賃貸所得とはかけ離れた計算を州によって求められる場合が多くあります。州の不動産賃貸所得を報告すれば済むのではなく、税金計算の出発点として、日本法人全体の純利益の提出を州政府によって求められます。すなわち、日本法人の損益計算書の税引前純利益を米ドルに換算して報告しなければなりません。さらにその金額に、一定の「按分配賦率」を適用して州の課税所得を計算し、税率を掛け合わせて州法人税とします。税金の計算に米国での賃貸活動とは関係のない日本の財務諸表とその明細を用意すること、そして、計算される税金額も予測できないほどかけ離れた金額になることを覚悟しなければなりません。州によっては欠損金になる年度に所得以外の基準(例えば資本金や純資産)に基づく税金を支払わなければならない場合もあります。以上から、日本法人による直接不動産投資は極力回避し、個人所有、あるいは、現地法人を設立して間接所有にすることが勧められます。(392)

直接不動産投資の注意点  Problems of Direct Real Estate Investment

<直接不動産投資の注意点  Problems of Direct Real Estate Investment >

日本から個人が直接米国内の不動産に投資をして家賃収入を受け取る場合の米国での税金は、源泉徴収方式またはネット・レント課税方式のいずれかの方式で課税されます。通常、ネット・レント課税方式を選択すると税金が低くなって有利となります。この選択をしない場合は、自動的に源泉徴収方式が適用されることを意味します。まずテナントに対してネット・レント課税方式を採用することを伝え、初年度の非居住外国人用の確定申告書に同方式を選択する旨を意思表示する文書とネット・レント純利益計算書を添付します。以後毎年、確定申告書にネット・レント純利益計算書を添付して提出します。ネット・レント純利益計算書とは、家賃収入から、固定資産税、支払利子、修繕費、管理費、維持費、保険料、周旋手数料、減価償却費などのあらゆる必要経費を控除した不動産賃貸所得のことです。

注意すべきことは確定申告書の提出を怠ってはならないということです。確定申告書を提出しないで、そのままオリジナルの申告書提出期限から1年4カ月が経過すると、すべての関連必要経費を控除する権利を失うという税法規定があるためです。その場合、家賃総収入に対して通常の税率を適用して計算した税金が徴収されます。関連必要経費を差し引いたネット・レントは純損失になるため、どうせ税金が発生しないという理由で申告しないのは、大変問題です。米国では、申告書を提出しないと時効が成立しないため、税務調査が開始されると何年でもさかのぼって追徴税、延滞利子、ペナルティーが課せられるからです。(305)

不動産所得の日本での申告 Tax Filing in Japan of U.S. Rent Income

<不動産所得の日本での申告 Tax Filing in Japan of U.S. Rent Income>

 必要経費がレント総収入よりも多ければ純損失となり、税金はゼロとなります。ネット・レント純損失が計算された場合は、他の所得との制限付きの損益通算(相殺)が認められ、さらに残った純損失は他の年度へ繰り延べられてネット・レント純利益や不動産譲渡益との損益通算(相殺)が認められます。

日本に住む日本人は、年度内に得た全世界所得が日本所得税法上、課税対象となります。アメリカのネット・レント純利益は日本の所得税法上の不動産所得であり、給与所得などと合算して総合課税の対象となります。米国側で課された連邦および州の税金は、日本で外国税額控除のしくみにより二重課税の回避が達成できます。ネット・レント純損失(赤字)となった場合は、原則として給与などの他の所得との損益通算による相殺控除ができるため、節税効果があります。日本で報告する米国不動産所得の金額は、減価償却計算の相違のため、および支払利子控除の日本での控除制限のため、アメリカ側のネット・レント純利益の金額とは異なります。(35)

ネット・レント課税方式  Tax on Net Rent Income

<ネット・レント課税方式  Tax on Net Rent Income>

ネット・レント課税方式の選択は、賃貸活動を開始した年度の確定申告書フォーム1040NRに同方式採用のため30%の源泉徴収税が免除される旨の意思表示をする記述を添付して行います。毎年、ネット・レント純利益計算スケジュールE様式を確定申告書に添付提出します。他に税務上報告義務のある所得があれば、ネット・レント純利益と他の所得を合算して税金を計算します。レント総収入から、固定資産税、支払利子、共益費、管理費、維持費、修繕費、保険料、仲介手数料、減価償却費など、レント活動を遂行するためのあらゆる必要経費の控除が認められて、ネット・レント純利益または純損失(不動産賃貸所得)が算出されます。連邦所得税は、10%~39.6%の6段階の累進税率、州所得税は1%~9.5%であり、州によって異なる税率が適用されます。州によっては所得税が存在しないため、無税という場合もあります。

ネット・レント課税方式では、レント総収入からすべての必要経費控除後の圧縮されネット・レント純利益に通常の所得税率を適用して税金を支払うため、源泉徴収方式よりも税額がはるかに少なくなります。(34)

源泉徴収方式 30% Withholding from Rent

<源泉徴収方式 30% Withholding from Rent>

 源泉徴収方式は賃貸収入から税金を源泉徴収します。テナントまたは不動産管理会社は、毎月支払うレンとから30%の税金を徴収して銀行振り込みでIRS(内国歳入庁)へ納付し、1年間のまとめを年末に報告書フォーム1042様式に記入してIRSへ提出する義務があります。テナントまたは不動産管理会社にとっては、いたって煩雑な事務手続きであるため、専門家の手助けなしには、この源泉徴収事務は達成できません。

もう一つの問題は、州税(場合によっては市税)の計算です。レントは連邦政府だけではなく、州税上も課税対象となります。連邦税の他に、不動産が所在する州政府に対しても申告納付をする義務があり、しかも州税の計算上、たえずネット・レント課税方式を適用しなければなりません。このため、連邦税は30%の源泉徴収によって課税関係が完結したとしても、州税のためにネット・レント純利益を計算しなければならず、結局もう一つの課税方式であるネット・レント課税方式を選択した場合と同じ手数がかかることになります。(33)

日本からの米国不動産直接投資 Direct Investment in U.S. Real Estate from Japan

日本からの米国不動産直接投資 Direct Investment in U.S. Real Estate from Japan>

 日本に住んでいる日本人が米国内の住宅を購入して賃貸している場合の課税を検討します。アメリカに住んでいた日本人が帰国後もアメリカの持ち家を処分せずに人に貸しているケース、または日本からの直接投資により取得した住宅や商業不動産をレントしているケースで、アメリカの税法上の「非居住外国人」が米国不動産に直接投資する形態です。購入した不動産を賃貸せずに、バケーションや商用でアメリカに来た折に使うだけの場合や、アメリカ留学中の子が住んでいるだけという場合は、不動産の固定資産税が課税されるだけで、その他の税金は発生しません。

投資家が米国の不動産を運用(賃貸)している場合、米国においても日本においても所得税上、課税対象となります。その場合、連邦所得税については、非居住外国人に適用される源泉徴収方式またはネット・レント課税方式のうちのいずれかの方式による課税を受けます。連邦税の他に、不動産が所在する州政府に対しても申告納付をする義務があります。州税ではたえずネット・レント課税方式が適用されます。(32)

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